治験バイトという言葉を聞いたことがあると思います。しかしその内容や取り決めはあまり詳しく知られておらず、高額の報酬を受け取れるという情報だけがひとり歩きしているのが、近年の現状でもあります。
この記事では、治験の報酬相場金額や、メリット・デメリットについて解説しています。これから治験をやってみようと考えている方は、本記事を参考に検討しましょう。
正しくは有償ボランティア
治験に興味があり調べている方は、治験バイトというような表現を見たことがあるのではないでしょうか。治験は、有償ボランティアという扱いのため、正確にはアルバイトではありません。
貰えるお金もバイト代ではなく、負担軽減費という形で支払われます。
負担軽減費とは、治験に参加された方にお願いしなければならない日常生活での制限(運動や飲酒など)や入院・通院における時間的拘束、経済的負担(交通費や昼食代など)に対して支払われるもので、薬を投与される行為そのものやそのリスクに支払われるものではないです。
本記事では内容を分かりやすくするために、「報酬」「謝礼金」と言い換えていますが、本質は負担軽減費の意味です。
この負担軽減費は、協力金や謝礼金と呼ぶこともあり、団体や機関によって呼び方が異なります。
治験とは、国が新しい薬剤の認可をする際、最終段階で人での臨床試験を行うことをさします。これに有償ボランティアとして参加すると、謝礼金として報酬を受け取れるという仕組みです。
治験のリスクと安全性については、こちらの記事も参考にしてください。
謝礼金の相場金額
治験は、治験が終わった場合に謝礼金を得られます。ボランティア参加者にはさまざまな制限がかかるため、そういった負担を軽減する意味で支払われています。
具体的には次のような制限がかかります。
● 外出や運動の禁止
● 飲食、喫煙の禁止
● ほかの薬の服用を禁止
治験中は、通院以外の外出、筋トレなどの激しい身体活動や、運動を控えなければならない案件もあります。また、アルコールやカフェイン、タバコなどの使用を控えなければならないこともあります。
そのほかでは、特定の食品や栄養補助食品の摂取禁止や、治験薬との相互作用を防ぐために、ほかの薬の服用が禁止されることもあります。
こういった制限がかかるため、治験の謝礼金は、参加者にかかる金銭的・精神的・時間的負担の度合いに応じて変動します。
治験には大きく分けると、通院するタイプのものと、入院するタイプのものがあります。拘束時間や検査内容によって金額は変わるため、参加する前に、治験の内容をしっかり確認しましょう。
通院タイプは、定期的に病院などの治験実施機関に出向いて検査を受けるタイプです。入院タイプは、ほかのボランティア参加者と一緒に入院し、起床時間や就寝時間、食事のスケジュールなどが定められた状態で、検査などを行うものです。
通院の場合は7,000円ほどから
通院タイプの治験は、通院1回あたりに対して7,000円~10,000円程度の謝礼金が相場です。治験内容や通院日数により金額が異なります。
注意しなければならないのは、通院タイプは通院回数に対して謝礼金が支払われる点です。実施期間の長さはカウントされないため、治験期間が長期間だったとしても高い謝礼金が得られるとは限りません。
通院回数が同じ回数であれば、治験期間が長い場合でも、謝礼金は変わらない点に注意が必要です。定期的な通院が必要な場合や、通院日時には制限がある場合などもあり、通院のために時間を確保しなければならない点が、大変な部分といえます。
入院の場合は10,000円以上にも
入院が必要な治験の謝礼金は、1泊当たりに対して支払われ、10,000円~30,000円が相場です。入院日以外に身長、体重など、事前健康診断が設けられている場合もあります。その場合は、謝礼金に交通費や健康診断の費用が含まれています。
入院タイプは、通院タイプと比べると、制限される時間や項目が多い特徴があります。毎日の治験スケジュールが決まっているため、病院が設定した一定のルーティンに従って生活しなければなりません。
1日当たりの拘束時間も長く、食事制限や行動制限など自由が制限されるため、通院タイプの案件より謝礼金も高額です。治験の募集サイトでは、通院と入院の両方を行うことで謝礼金が支払われる案件も多くあります。
参加前に知りたい治験へのギモン
治験に初めて参加する場合、どのような流れで参加すればよいのか、途中で辞退できるのかどうかなど、さまざまな不安がありませんか?
ここでは、治験の流れや謝礼金が支払われるタイミング、途中辞退ができるかどうかなどを解説します。
治験の流れは?
治験に参加するときの流れは、おおまかに次のようなイメージです。
1. 治験についての説明会へ参加する
2. 治験に申し込む
3. 事前の検診を受ける
4. 治験開始
まず、治験についての説明会に参加します。説明会の情報は、治験募集といったキーワードで検索して探すとよいでしょう。説明会に参加して、治験の詳細について説明を受けます。
治験のリスク、謝礼金やスケジュールなどの説明を受けたあとは、実際に治験に申し込みます。申し込みをすると、場合によっては事前の健康診断を受けるように要請されることがあります。
健康診断で問題が無ければ採用となり、治験がはじまります。採血などの健康診断は、治験開始の前日、もしくは当日にも実施されます。
謝礼金はいつもらえる?
治験の謝礼金は、治験に参加する際に決められたスケジュールに従って支払われます。謝礼金の支払いタイミングは治験の案件によって異なるため、気になる場合は参加する前に確認しましょう。
一般的には、謝礼金は治験完了後に支払われることが多いです。入院プランであれば、最終退院日に支払われる形です。
ただし、治験が長期間にわたる場合や、複数回の来院が必要な場合には、分割での支払いが行われる場合もあります。謝礼金の支払い方法は、現金手渡しや銀行振込などの方法があります。
高校生でもできる?
一般的に、治験は成人を対象としています。これは、治験薬による副作用のリスクがあるため、成人であることが条件だからです。
近年、成人年齢が18歳となり、18歳から参加できる治験も増えてきました。しかし、身体的な成熟を理由として、20歳から参加可能という条件の治験が多い状況です。
こういった背景から、高校生や未成年の方が参加できる可能性は低いでしょう。
途中辞退は可能?
治験は自由意志のボランティアのため、治験途中で継続することに恐怖や不安を感じた場合は、途中で辞退を申し出ることができます。
治験の参加はあくまでも参加される方の「自由意志」になります。
事前に内容をしっかりと理解した上でご参加頂きたいですが、途中で考えを変えて辞退することはいつでも可能です。その際、特に不利益になるようなことはございません。
謝礼金には税金が発生することも
治験で得た謝礼金は、税区分上の雑所得に該当します。そのため、所得税と住民税の課税対象であり、謝礼金の金額次第では確定申告が必要です。
なお、雑所得として扱うものは、謝礼金だけではありません。主な雑所得の例としては具体的に以下のようなものがあります。
● フリマサイトでの売上金
● アフィリエイトでの収入
● 印税や講演料
● FX取引等による所得
● アルバイトをかけもちしており、メインの給与以外の給与所得がある
治験以外でこれらの雑所得がある場合は、すべてを合算して年間20万円を超える場合は確定申告が必要です。
また、謝礼金は銀行振込の場合もあれば、手渡しの場合もありますが、手渡しの場合でも確定申告の条件は変わりません。
会社員やアルバイトの方
会社員として働いている場合や、アルバイトをしている場合で確定申告が不要なのは、以下の場合です。
● 会社以外からの収入が無く、年間の治験の謝礼金が20万円を超えない
● アルバイト先以外からの収入が無く、年間の治験の謝礼金が20万円を超えない
● 給与収入以外の雑所得があるが、治験の謝礼金と合計しても年間20万円を超えない
1年間に得た治験の謝礼金と、それ以外の雑所得の合計が20万円以下であれば、確定申告は不要です。
ただし、会社員やアルバイトの方であっても、年収が2000万円を超えている場合や、年末調整をしていない場合などは、謝礼金として受け取った金額が年間20万円以下であっても確定申告が必要です。
家族の扶養に入っている場合は、給与所得の年収が103万以下であれば所得税はかかりませんが、治験で得た謝礼金によって103万円を超えてしまった場合は、金額によって確定申告を行う必要があります。
学生の場合は勤労学生控除といって、27万円の所得控除があるので、年収合計130万円までは確定申告が不要です。
ただし、勤労学生控除の要件で「給与所得以外の所得が10万円以下であること」とされているため、治験の謝礼金を含めた雑所得が10万円以下である必要があります。
上記のように、扶養や勤労学生控除の要件にも関連するため、よく確認してから参加するようにしましょう。
個人事業主の方
個人事業主やフリーランスの方の場合は、謝礼金が年間20万円以下の場合でも、確定申告が必要です。確定申告する場合、治験に参加するために発生した交通費等は、経費として控除できます。
収入が治験謝礼のみの方
メインとなる給与収入がなく、治験の謝礼金以外に収入がない方の場合は、年間で受け取った謝礼金の合計が48万円を超えるまでは、所得税がかからないため確定申告が不要です。
謝礼金の合計から、治験に参加するためにかかった交通費など経費を引いた金額が48万円以下であれば、確定申告はしなくても大丈夫です。
謝礼金が基礎控除額の48万円を超えた場合でも、基礎控除以外の所得控除や税額控除などで控除できれば、無税になるケースもあるので、治験参加前に確認しておきましょう。
治験のメリット・デメリット
高額な謝礼金を得られる治験ですが、メリット・デメリットを正しく理解したうえで参加することが大切です。ここでは、治験のメリットとデメリットを解説します。
メリット
治験に参加することのメリットは、下記のとおりです。
働かずに受け取れる高額謝礼金
治験は労働ではないため、とくに作業や手順を覚えるといったことはありません。時間的な拘束はありますが、体力や頭脳を使うことなく、比較的高額な謝礼金を得られます。
治験は基本的には、開始前に基礎研究や動物実験が繰り返されたあとに行われます。理論上は安全性が確認された状態で、人への薬の投与などを行うため、必要以上に心配する必要はありません。
万が一のときも治験の実施施設には、医療従事者が待機しているため、適切な検査や治療を受けられます。
無料の健康診断
ほとんどの場合、治験の参加申し込みの段階や、参加前日、治験開始当日などのタイミングで、健康診断が行われます。
この健康診断で合格となれば、基礎的な健康診断で分かる範囲には大きな異常はないといえます。日頃チェックしにくい自分の身体状態を知る機会にもなるでしょう。
治験で行う健康診断の費用は、謝礼金に含まれるため、実質無料で健康診断を受けられると考えることもできます。
社会貢献
治験は謝礼金として金銭が得られることから労働に対して支払われる賃金や給料と同じように考えてしまいがちですが、新薬の効き目や安全性などを確認することで、医療や社会に大きく貢献できる有償ボランティアです。
デメリット
治験に参加する場合は、謝礼金だけでなく、さまざまなデメリットがあることを知っておくことも非常に重要です。詳しくは治験に参加を申し込む際の説明会で案内されるため、しっかり説明を受けましょう。
「4か月ルール」など制限が多い
治験は高額な謝礼金が得られますが、連続で治験を受けることはできません。つまり、謝礼金だけで生活することは厳しいでしょう。
治験では、一度受けたあと4か月(治験内容によっては3か月)は再度治験を受けられないという決まりがあります。万が一、前回の治験で投与された薬の影響が体内に残っていた場合、次の治験で投与した薬の効果を正しく調べることができない可能性があるためです。
また、思わぬ作用が働く可能性もあるため、体内に残った薬の影響が完全になくなるまでは、次の治験を受けられないようになっています。
この期間を休薬期間と呼び、治験によっては4か月以上開けなければならない場合もあります。
また、個人情報を偽って再度治験を受けることはできません。
拘束期間の長さ
入院タイプの場合は、治験の内容によっては長期的なスケジュールを確保する必要があります。土日に治験を行う場合もありますが、基本的には平日に実施されることが多いため、平日に仕事をしている方の場合は、スケジュールの調整が大変でしょう。
さらに入院中は行動制限、外出制限、食事制限などのように制限事項もあります。検査中以外は自由時間のため、制限の範囲内で自由に生活できますが、こういった制限にストレスを感じる方もいるでしょう。
副作用などの健康リスク
治験は、基礎研究や動物実験が繰り返されたあとの最終テストとして実施されるため、理論上の安全性は確認されています。しかし、極稀ではあるものの、予期することのできない副作用が発生する可能性も否定できません。
そのため治験への参加は強制ではなく、事前に医師の説明を受けたうえで、自分の意志で参加を決めることが必須となっています。
まとめ
治験として参加する場合、謝礼金だけに注目するのではなく、治験内容やリスクをしっかり理解し、自己責任で参加することが重要です。
これから治験をやってみようと考えている方は、治験バンクの利用がおすすめです。治験バンクでは、治験参加にあたって不安に感じることや、参加者の声なども詳細に解説しています。
治験参加前には、こういった情報をよく確認したうえで、自分の意志で参加を決めるようにしましょう。