治験に興味はあっても、なんとなく怖いというイメージや、副作用のおそれもあるという話を聞いて、参加に踏み切れていないのではないでしょうか?
治験とは、国から認可を受けてない薬の人体試用実験ですが、どういったリスクがあるか分からないと不安でしょう。治験ボランティアに参加する場合は、しっかりとリスクを把握したうえでの参加表明が大切です。
この記事では、治験ボランティアに参加する際のリスクと、治験の安全性について解説します。
臨床開発には治験が必要不可欠
日本国内で使っている薬は、厚生労働省から認可を受けています。この認可を受けるためには、人間に投与しても安心であるという証明が必要です。
安全性を証明するためには、さまざまな実験が必要で、これを臨床試験と呼んでいます。臨床試験では、最終的に人間への投与で薬の安全性を確認します。この人間への投与を行う最終段階の臨床試験が、治験です。
治験を行うことで、開発している新薬が人間に投与しても安全であるか、副作用が発生しないかといったデータが取得できます。また、こういったデータがあれば、医師本人の経験則とは関係なく、薬を処方できるようになります。
新薬を開発し、認可を受けるためには、治験は非常に重要であり、治験ボランティアには大切な意義があるといえます。
新薬開発までの流れ
新しい薬が開発されるまでには、試験を行う必要があります。まずは、さまざまな実験や動物実験を行います。動物実験で有効性を認められれば、人間に対する正確な影響を調査するため、最終的に人間での試験に移ります。
治験は、一般的に3段階に分かれています。第1段階では、健康な人を対象にして、安全性を評価するための試験を行います。
第2段階では、対象となる疾患を持った少数の患者を対象にして、効果や副作用を確認するための試験を行います。第3段階では、対象となる疾患を持った多数の患者を対象に、薬の有効性や安全性を評価します。
「危険だから高額謝礼」はウソ
治験ボランティアに参加した場合に支払われる謝礼金について、治験内容に対してあまりにも高額だと、危ない実験なのではないかと感じてしまう方もいるでしょう。
治験の参加で得られる謝礼金については、医薬品医療機器等法や厚生労働省が定めるルールで、厳密に規制されています。報酬額は、参加者にかかる負担を考慮したものとされており、金額についても関係機関に審査されているものなので、安心してください。
したがって、謝礼金が高額に設定されている理由は、危険だから高額なのではなく、拘束時間が長かったり、通院回数が多かったりするためで、こういった制限による身体的、精神的負担を考えての金額設定がされています。
治験による事故はある?過去の事例など
治験が行われるのは実験の最終段階であり、動物実験などを繰り返したあとに行われる最終テストであるため、理論上は安全とされています。
とくに治験では、既に海外で利用されている薬を用いることが多く、生命に危険が及ぶような重篤な副作用が発生するとは考えにくい、という研究結果のもとで行われています。
しかし臨床試験であるため、リスクがまったくないとは言い切れないのも事実です。過去には実際に、何件かの事故も発生しています。
2006年イギリスで起こった事例
2006年にイギリスの治験で発生した事例です。治験では、TG1412と呼ばれる薬を6人の男性に投与しました。
この薬は、炎症を鎮めるリンパ球を刺激して炎症を鎮める物質を引き出すことで、難治性リウマチや、慢性の白血病治療ができると期待されていた薬でした。簡単にいえば、細胞を活性化する働きがある薬だったので、こういった症状の治療が期待できるとされていたのです。
動物実験ではサル20頭のうち、2頭に一過性のリンパ節腫脹が見られましたが、TG1412の作用を考えると、起こりうる現象であったため、結果的には人間にも投与されることになりました。
治験でTG1412を投与された6名は、投与直後から全身の痛みや呼吸困難を訴え、1時間後には全員が多臓器不全になってしまいました。結果、全身の臓器が不調となり、指の細胞が腐り落ちるなどの痛ましい結末になりました。
結末だけみると、非常におそろしく感じる方もいるでしょう。しかしこの事例では、人間への投与の前に行われていた試験では、1時間をかけてゆっくりと静脈注射で投与していたところを、実際の人間への投与では4分間の注射で行ったとされています。
こういった、実験段階で安全性を確認した手順を逸脱した方法で行われた治験であったため、悲惨な結末を招いたと考えられています。
2016年フランスで起こった事例
2016年にフランスでBIA10-2474という新薬の治験が行われましたが、1人が死亡し、4人が重傷を負う事故が発生しました。
この薬は、疼痛を和らげるために開発されていたものでした。治験を行っていた会社は、被験者の健康管理が不適切であったこと、薬剤の安全性について情報が不十分であったことなどが原因であるとして、厳しい非難を浴びました。
2019年日本で起こった事例
2019年に20代の男性が、てんかん発作を抑える治療薬の治験に参加しました。治験に参加したときは、持病や身体に異常もなく、健康だったとされています。
男性は10日間にわたり、治験薬を1日当たりの最高用量を投与されていました。3日間の経過観察を行いましたが、眠気やめまいなどが見られただけで、目立った異常は見られなかったため、退院しました。
しかし、男性は退院したその日に自主的に再来院し、幻視や幻聴があったと訴えました。治験を担当した医師は、男性の受け答えがはっきりしていたことから、経過観察をすることを決めました。
その結果、男性は翌朝に電柱に登り、飛び降りて亡くなってしまいました。男性には精神科の既往歴はなく、幻視や幻聴があると訴えていたことから、治験と異常行動の因果関係がないとは言い切れないと結論付けています。
ただし、事故調査結果によると、治験を担当した医療機関では、治験中に緊急事態があった場合に、適切な処置がとれるように準備をしていたことが確認されています。
また、担当した医師には、過去に中枢神経系の治験実績があったことなどから、法律や省令で定められたルールを逸脱するような部分はなかったとされています。
この事例以降は、日本では重篤な副作用があったという事例は報告されていません。そのため、日本での治験は、海外よりも安全に、ルールに基づいて実施されていると考えてよいでしょう。
事故の前例はあるが非常に稀なケース
ご紹介した事例のように、過去には日本だけでなく、さまざまな国において治験での事故が発生しています。しかし、こういった事故は非常に稀なケースです。
治験は、動物実験などを繰り返し、理論上の安全性が確認されたうえで行う最終テストです。とくに、日本においては治験のルールが厳しく定められているため、紹介した海外の事例のように、ルールを逸脱した手順で治験が行われることはないでしょう。
参加するうえで知っておきたいリスク
治験は最終テストであるため、理論上の安全性は確認されていますが、予測不能な副作用が発生しないとは言い切れません。
そのため、治験ボランティアに参加する場合は、参加によるリスクを知っておくことが大切です。
インフォームド・コンセントとは
インフォームド・コンセントとは、治療や検査などの医療行為を行う前に、医師からその内容やリスクなどの説明を受け、自分で理解したうえで同意することです。
たとえば、病気にかかって病院で検査をする場合、医師は検査内容やリスク、検査結果に基づく治療方針などを説明してくれるでしょう。
その説明を聞いたうえで、自分自身が同意することが必要です。これによって、あなたが自分自身で決断し、治療や検査に参加することができます。
治験は強制ではなく、自らの意思で参加するボランティアであるため、インフォームド・コンセントが必須です。
主作用になることも?副作用について
副作用は、治験参加者の側面から見ると有害なものと感じますが、いっぽうで、副作用を主作用として薬が作られることもあります。
たとえば、風邪薬を飲むと眠くなることが多いでしょう。この眠くなる作用に着目して作られたのが、眠りが浅いといった悩みを持つ人が用いる睡眠改善薬です。
副作用はある側面から見ると有害ですが、別の側面から見れば違った利用方法も考えられるということです。そのため、治験で発生した予期せぬ副作用も、医療に活かせる大切なデータです。
治験中の有害事象とは
有害事象とは、治験で薬を投与したボランティア参加者に生じる、想定外の事象や好ましくない事象や兆候のことです。
たとえば、治験の通院中にケガをした、治験期間中の食事で食あたりを起こしたなども有害事象に含まれますので、治験薬が原因かどうかは関係がありません。
副作用とは、有害事象のうち、治験薬が原因で発生した可能性があり、治験との因果関係が否定できないときや、想定していた軽い副作用ではない症状が発生した場合を指します。
治験薬との因果関係が否定できない、重度の副作用が発生した場合は、治療費や検査費用を製薬会社が負担します。
治験の安全性を守るために行われている取り組み
治験で予期せぬ副作用が発生することは、ごくまれではありますが、完全に否定することはできません。そのため治験では安全性を守るために、さまざまな取り組みが行われています。
段階を踏んだ実施
治験は、新しい薬や治療法を開発するために行われる臨床研究のことで、安全性を確保するために3つの段階を踏んで実施されます。
まず治験は、動物実験で安全性や効果を確認した後、第一段階として、健康な人を対象に少量の薬剤を投与して、安全性を確認します。これを第1相試験と呼びます。
次に第2相試験では、患者さんを対象にして、薬剤の効果や副作用を調べます。この段階では、治験の参加者数も増えます。
最後に第3相試験では、患者さんを対象にして、大規模な臨床試験を行います。この段階では、薬剤の効果と安全性をより確実に確認するために、多くの治験参加者が必要となります。
そして、治験が成功した場合、承認されて市販されます。多くの人の協力によって、新しい薬や治療法が開発され、医療の進歩につながります。
治験実施計画書の提出義務
治験を実施する場合、製薬会社や研究機関は、治験実施計画書を作成して提出する義務があります。治験実施計画書には、治験の目的や方法、実施予定の期間や場所、治験対象者の選定基準、治験データの取り扱い方法など、さまざまな情報が含まれています。
治験実施計画書は、製薬会社や研究機関が治験を行う前に、事前に厚生労働省に提出するよう決められています。提出された治験計画書は、厚生労働省などが審査を行います。審査の結果、問題がなければ、治験を開始することができます。
つまり治験は実施されるまでに事前の審査があり、国に承認されなければ実施できないため、基本的には安全が確保されているといえます。
参加者への補償
治験ボランティア参加者への補償は次のようなものがあります。
・医療費
治験中に健康被害などが発生した場合の治療費用です。治験中に発生した医療費用は、参加者本人が負担する必要がありません。
・医療手当
治験に参加するための交通費や入院費がかかった場合、その費用が補償されます。
・補償金
治験中に健康被害を受け、一定以上の障害を負ったり、死亡したりといった場合に支給されます。ただし、治験行為との因果関係が否定できない場合でなければ、補償金は支払われません。
また、治験に参加する前に事前に説明書を読み、インフォームド・コンセントを理解し、健康状態について正直に伝えた場合に限り、補償金が支払われることになります。
途中でも参加辞退が可能
治験ボランティアに参加する際には、自己責任で行うことが重要です。治験ボランティアは、参加者にとって負担の大きい試験であり、心身への影響や副作用が生じる可能性があるため、治験に参加するかどうかは慎重に検討しましょう。
しかし、治験開始前の説明を聞いて怖くなるケースや、治験中もさまざまなストレスや不安などで辞退したくなることもあるでしょう。
治験ボランティアは自由意志のボランティアのため、辞退したい場合は、自分自身の健康状態や参加の意思に基づいて、途中で辞退することも可能です。ただし、治験の内容や段階によっては、辞退する場合に特定の手続きが必要になる場合もあります。
まとめ
この記事では、治験ボランティアに参加したときのリスクや、治験の安全性について解説しました。治験は国の承認を得て、さまざまな実験を繰り返したあとに最終テストとして行われていますが、副作用が発生する可能性は否定できません。
しかし、万が一の事態があっても、医療従事者が待機しているため、迅速な処置を受けられる環境で治験は行われます。したがって、過度に不安に感じる必要はないでしょう。
これから治験をやってみようと考えている方は、治験バンクの利用がおすすめです。治験バンクでは、治験ボランティア参加にあたって不安に感じることや、参加者の声なども詳細に解説しています。
治験ボランティア参加前には、こういった情報をよく確認したうえで、自分の意志で参加を決めるようにしましょう。